人書倶老９

１　第九　昨年末にベートーヴェンの「第九」を歌いました。「水戸の街に響け！３００人の第九２０２４」です。　この催しは１９９９年から始まりましたが、途中新型コロナの影響で３年間の休止があり今回は通算２１回目になります。　私は昨年からの参加で、最初の年はドイツ語の歌詞や音程を取るのに苦労しましたが、今年はだいぶ慣れて余裕ができました。　書が「凍れる音楽」とも言われるように、書と音楽とはよく似ています。とにかく始まったら途中で止められません。　あっ間違えたと思ってもどうしようもないし、ああすればよかったこうすればよかったと思っても後の祭りですから、そのネガティブな気持ちを引きずらないで次に進むことが大切です。　どんなに練習しても全てに完ぺきにできるとは限らない、今自分ができる精一杯のことをやるだけだと腹をくくって本番に臨みます。　毎年寒さが大敵なのですが、今年は比較的暖かく、風もさほど強くなかったので助かりました。　晴れ渡った冬空に３００人の声を響かせた第九は歌っていてとても気持ちよく、充実感と達成感を味わわせてもらいました。　指導していただいた先生方や運営に携わったスタッフの皆さんに感謝です。（２０２５年１月）

２　筆の福袋　年末に筆庵さんから案内があり、正月に筆の福袋を買いました。　長年書をやっているとどうしても自分好みの筆に偏ってしまうものですが、福袋ならいろいろな種類の筆が入っているので、ふだん自分が選ばないような筆を使うのもよいかと思って購入した次第です。　通常版は9,800円、上級者用は16,800円ということなので上級者用を注文しました。　届いた中身は以下の通りです。（大筆）１　兼毫筆　中鋒　鋒の長さ45㎜２　兼毫筆　中鋒　鋒の長さ53㎜３　細光鋒羊毛筆　長鋒　鋒の長さ57㎜４　細光鋒羊毛筆　長鋒（さばき筆）　鋒の長さ65㎜５　イタチ筆　中鋒　鋒の長さ47㎜（中筆）６　犬毛筆（特殊筆）　鋒の長さ46㎜（細筆）７　イタチ細筆　鋒の長さ25㎜８　イタチ細筆　長鋒　鋒の長さ35㎜９　イタチと玉毛の細筆　鋒の長さ28㎜　合計９本も入って16,800円では、買う方としては有難いのですが筆屋さんには申し訳ないような安い値段です。　それぞれの書き味の違いを楽しみながら、今年も臨書に創作に精を出したいと思います。（２０２５年２月）
筆庵「筆の福袋」
３　何でもアリーナ　茨城県ひたちなか市の市民交流センターからお声がけをいただき、「何でもアリーナ」という楽しい名前の展覧会に出品しました。　交流センターと関係がある作家のコラボ展で、今回はアクリル画、細密色鉛筆画、名画刺繍、古布・骨董、細密アクリル画、編み物、布絵本、それに私の篆刻・水墨画で総勢６人＋２団体です。　こうしたコラボ展の楽しさは、観覧者に多彩なジャンルの作品をご覧いただけると同時に、作家同士の交流が持てることです。　作品制作を始まったきっかけは何か、どんなところに苦労しているか、これからやりたいことは何かなど、それぞれの皆さんと話に花が咲きました。　この会場では私が会長を務める篆刻愛好家グループ「游刻会」が毎年５月に展示会を開いています。　今年は５月21日（水）から26日（月）まで、時間は10：00から20：00です。　皆様ぜひお越しください。お待ちしております。（２０２５年３月）
「何でもアリーナ」多木のコーナー
４　漢詩のこころ　４月から新しいコーナーを始めました。　書道をやっている多くの人と同様に、私も半世紀以上にわたって漢詩に親しんできました。そこで今年は自分の好きな漢詩を５０首ほど書くことにしました。　揮毫に当たって心掛けたのは、漢詩の字面を書くのではなく文学として言葉を書くこと、漢詩の意味内容や込められた感情を書として表現することです。私は書を造形的な観点だけでとらえることにはどうしても抵抗があり、作品を制作する際には書こうとする言葉の意味内容から出発しています。そしてその言葉の意味内容を表現するのにふさわしい書体、書風、構成を考え、それに見合った筆、紙、墨を選びます。今回のような漢詩を書く場合には、詩の情景を思い浮かべながら、その詩の作者になったような気持ちで書いています。我ながら伝統的な書の枠組みから離れられないものだなあと苦笑してしまいますが、いまさら変えられるものでもありません。そういうわけで題名は「漢詩のこころ」としました。　日本では書の題材として漢詩を書くことが普通に行われていますが、私はこうした状況についてずっと抵抗感がありました。外国文学である漢詩を日本人がもっともらしく書くことに対して、本場中国に対するおこがましさと、中国人の真似事をしていることへのうしろめたさと、中国人には到底かなわないという引け目を感じていたからです。今回そうした気持ちにいったん区切りをつけて漢詩の揮毫に取り組むことにしましたが、こだわったのは、漢詩の持つ世界観をどのように表現するかということです。漢詩を書く以上は、漢詩の意味はもちろんのこと、作者の人物像やその漢詩が詠まれた背景を知らなければなりません。漢詩には往々にして比喩を含んだ裏の意味があることが多いのでその点についての洞察も必要です。また、漢詩を読む際に日本では読み下しが一般的ですが、それでは中国語本来の音とリズムが失われ語順も変わってしまうので、できるだけ原音で読みながら書くようにしました。本当の意味で漢詩の心が分かっているとは言えないかもしれませんが、日本人による漢詩揮毫の試みのひとつとしてご海容いただければ幸いです。特に留意したのは、漢字の字面を弄んだだけの造形遊戯に陥らないようにすることです。書には造形芸術という側面は確かにありますが、その表現は言葉を基礎に成り立っているという点にだけはこだわっていきたいと思います。漢詩の選定に当たっては以下の書籍を参考にしながら、私が昔から慣れ親しんだ名詩を中心に選びました。『中国詩人選集』各巻　岩波書店　１９５８年～浅野通有　『漢詩要解』　有精堂　１９６５年田部井文雄・菅野礼行注　『標音唐詩三百首』　大修館書店　１９８０年進藤虚籟『書のための漢詩手帳』　木耳社　１９８７年筧文生　『風呂で読む唐詩選』　世界思想社　１９９５年筧文生　『風呂で読む李白』　世界思想社　１９９６年李伏雨　『小篆作品精選百幅』　西泠印社　２０００年張一帆監修　『聴く唐詩三十首』　日中通信社　２００３年張国光　『趙之謙魏碑楷書集唐詩』　上海書店出版社　２００３年（２０２５年４月）

５　かわわだ展　私が水墨画を学んでいる酒井清一（翠酒湖）先生は、一般向けの教室のほか水戸のリハビリデイサービスセンター「かわわだ」でも水墨画を指導しています。アートの力をリハビリに役立て、高齢者の皆さんに生きがいと楽しみを見つけてほしいとの思いからです。　５月６日から１１日まで、水戸の偕楽園公園センターで介護施設利用者24人の展覧会が開かれたので観覧してきました。水墨画をはじめ色鉛筆画、ちぎり絵、書道などの意欲的な作品が並んでいます。　酒井先生はこの展覧会のために、全員の作品の裏打ちや額装、設営などすべてボランティアでされています。ご自身の作品制作や生徒指導のみならず、こうした社会貢献にまで活動を広げていらっしゃるのには本当に頭の下がる思いです。（２０２５年５月）
かわわだ展会場（水戸の偕楽園公園センター）

１　第九　昨年末にベートーヴェンの「第九」を歌いました。「水戸の街に響け！３００人の第九２０２４」です。　この催しは１９９９年から始まりましたが、途中新型コロナの影響で３年間の休止があり今回は通算２１回目になります。　私は昨年からの参加で、最初の年はドイツ語の歌詞や音程を取るのに苦労しましたが、今年はだいぶ慣れて余裕ができました。　書が「凍れる音楽」とも言われるように、書と音楽とはよく似ています。とにかく始まったら途中で止められません。　あっ間違えたと思ってもどうしようもないし、ああすればよかったこうすればよかったと思っても後の祭りですから、そのネガティブな気持ちを引きずらないで次に進むことが大切です。　どんなに練習しても全てに完ぺきにできるとは限らない、今自分ができる精一杯のことをやるだけだと腹をくくって本番に臨みます。　毎年寒さが大敵なのですが、今年は比較的暖かく、風もさほど強くなかったので助かりました。　晴れ渡った冬空に３００人の声を響かせた第九は歌っていてとても気持ちよく、充実感と達成感を味わわせてもらいました。　指導していただいた先生方や運営に携わったスタッフの皆さんに感謝です。（２０２５年１月）

２　筆の福袋　年末に筆庵さんから案内があり、正月に筆の福袋を買いました。　長年書をやっているとどうしても自分好みの筆に偏ってしまうものですが、福袋ならいろいろな種類の筆が入っているので、ふだん自分が選ばないような筆を使うのもよいかと思って購入した次第です。　通常版は9,800円、上級者用は16,800円ということなので上級者用を注文しました。　届いた中身は以下の通りです。（大筆）１　兼毫筆　中鋒　鋒の長さ45㎜２　兼毫筆　中鋒　鋒の長さ53㎜３　細光鋒羊毛筆　長鋒　鋒の長さ57㎜４　細光鋒羊毛筆　長鋒（さばき筆）　鋒の長さ65㎜５　イタチ筆　中鋒　鋒の長さ47㎜（中筆）６　犬毛筆（特殊筆）　鋒の長さ46㎜（細筆）７　イタチ細筆　鋒の長さ25㎜８　イタチ細筆　長鋒　鋒の長さ35㎜９　イタチと玉毛の細筆　鋒の長さ28㎜　合計９本も入って16,800円では、買う方としては有難いのですが筆屋さんには申し訳ないような安い値段です。　それぞれの書き味の違いを楽しみながら、今年も臨書に創作に精を出したいと思います。（２０２５年２月）
筆庵「筆の福袋」
３　何でもアリーナ　茨城県ひたちなか市の市民交流センターからお声がけをいただき、「何でもアリーナ」という楽しい名前の展覧会に出品しました。　交流センターと関係がある作家のコラボ展で、今回はアクリル画、細密色鉛筆画、名画刺繍、古布・骨董、細密アクリル画、編み物、布絵本、それに私の篆刻・水墨画で総勢６人＋２団体です。　こうしたコラボ展の楽しさは、観覧者に多彩なジャンルの作品をご覧いただけると同時に、作家同士の交流が持てることです。　作品制作を始まったきっかけは何か、どんなところに苦労しているか、これからやりたいことは何かなど、それぞれの皆さんと話に花が咲きました。　この会場では私が会長を務める篆刻愛好家グループ「游刻会」が毎年５月に展示会を開いています。　今年は５月21日（水）から26日（月）まで、時間は10：00から20：00です。　皆様ぜひお越しください。お待ちしております。（２０２５年３月）
「何でもアリーナ」多木のコーナー
４　漢詩のこころ　４月から新しいコーナーを始めました。　書道をやっている多くの人と同様に、私も半世紀以上にわたって漢詩に親しんできました。そこで今年は自分の好きな漢詩を５０首ほど書くことにしました。　揮毫に当たって心掛けたのは、漢詩の字面を書くのではなく文学として言葉を書くこと、漢詩の意味内容や込められた感情を書として表現することです。私は書を造形的な観点だけでとらえることにはどうしても抵抗があり、作品を制作する際には書こうとする言葉の意味内容から出発しています。そしてその言葉の意味内容を表現するのにふさわしい書体、書風、構成を考え、それに見合った筆、紙、墨を選びます。今回のような漢詩を書く場合には、詩の情景を思い浮かべながら、その詩の作者になったような気持ちで書いています。我ながら伝統的な書の枠組みから離れられないものだなあと苦笑してしまいますが、いまさら変えられるものでもありません。そういうわけで題名は「漢詩のこころ」としました。　日本では書の題材として漢詩を書くことが普通に行われていますが、私はこうした状況についてずっと抵抗感がありました。外国文学である漢詩を日本人がもっともらしく書くことに対して、本場中国に対するおこがましさと、中国人の真似事をしていることへのうしろめたさと、中国人には到底かなわないという引け目を感じていたからです。今回そうした気持ちにいったん区切りをつけて漢詩の揮毫に取り組むことにしましたが、こだわったのは、漢詩の持つ世界観をどのように表現するかということです。漢詩を書く以上は、漢詩の意味はもちろんのこと、作者の人物像やその漢詩が詠まれた背景を知らなければなりません。漢詩には往々にして比喩を含んだ裏の意味があることが多いのでその点についての洞察も必要です。また、漢詩を読む際に日本では読み下しが一般的ですが、それでは中国語本来の音とリズムが失われ語順も変わってしまうので、できるだけ原音で読みながら書くようにしました。本当の意味で漢詩の心が分かっているとは言えないかもしれませんが、日本人による漢詩揮毫の試みのひとつとしてご海容いただければ幸いです。特に留意したのは、漢字の字面を弄んだだけの造形遊戯に陥らないようにすることです。書には造形芸術という側面は確かにありますが、その表現は言葉を基礎に成り立っているという点にだけはこだわっていきたいと思います。漢詩の選定に当たっては以下の書籍を参考にしながら、私が昔から慣れ親しんだ名詩を中心に選びました。『中国詩人選集』各巻　岩波書店　１９５８年～浅野通有　『漢詩要解』　有精堂　１９６５年田部井文雄・菅野礼行注　『標音唐詩三百首』　大修館書店　１９８０年進藤虚籟『書のための漢詩手帳』　木耳社　１９８７年筧文生　『風呂で読む唐詩選』　世界思想社　１９９５年筧文生　『風呂で読む李白』　世界思想社　１９９６年李伏雨　『小篆作品精選百幅』　西泠印社　２０００年張一帆監修　『聴く唐詩三十首』　日中通信社　２００３年張国光　『趙之謙魏碑楷書集唐詩』　上海書店出版社　２００３年（２０２５年４月）

５　かわわだ展　私が水墨画を学んでいる酒井清一（翠酒湖）先生は、一般向けの教室のほか水戸のリハビリデイサービスセンター「かわわだ」でも水墨画を指導しています。アートの力をリハビリに役立て、高齢者の皆さんに生きがいと楽しみを見つけてほしいとの思いからです。　５月６日から１１日まで、水戸の偕楽園公園センターで介護施設利用者24人の展覧会が開かれたので観覧してきました。水墨画をはじめ色鉛筆画、ちぎり絵、書道などの意欲的な作品が並んでいます。　酒井先生はこの展覧会のために、全員の作品の裏打ちや額装、設営などすべてボランティアでされています。ご自身の作品制作や生徒指導のみならず、こうした社会貢献にまで活動を広げていらっしゃるのには本当に頭の下がる思いです。（２０２５年５月）
かわわだ展会場（水戸の偕楽園公園センター）